中国は、いま
「中国は、いま」 国分良成編 岩波新書1297

帯にあるように15名の専門家の提言を集め、終章で編者がまとめています。
■はじめに と あとがき から
本書に提言されている緒方貞子さんが講演の席上で「wiseな国民とは」との質問に対して、「多様性を理解できる人たちです」と即答され、一同が感銘を受けた。われわれも中国という他者を理解するところからまずは始めようと、はじめに に書かれています。
あとがきには
中国がより豊かで開放的で民主的な体制へと安定的に移行してくれることが、中国国民にとってはもちろんのこと、日本にとってもプラスとなろう。好き嫌いではなく、日本はまさに中国に正面から向き合わねばならない。
誰もが中国問題の評論家になり、中国問題のプロフェッショナルたちの声が小さくなってきている。そこで本書で結集してもらい、全体像を見るために5人の重鎮の先生方に提言をお願いしたとのこと。
■さんじのぱぱの感想
第3章の中国軍(共産党の人民解放軍)や、第8章のレアアース問題については専門家ならではの詳細な背景が説明され、ニュースだけでは全体像がわかりにくく誤解しそうなことがわかりました。
■読書メモ
1)核心的利益
最近中国で利用されるこの語句は、2010年12月13日「人民日報」紙上で胡錦濤の外交問題ブレーンで国務委員の戴秉国が個人的見解として
・国体----共産党の指導(領導)
・政体----社会主義制度
・政治の安定----中国的特色の社会主義の道
としている。
2)社会的安定に必要な経済成長
中国共産党指導者が最も重要視する「社会的安定」のためには、
大量の失業者を生み出さないことが大前提。
それには、経済成長率が7%を超えている必要がある。
3)少数民族
絶対人口の大きい少数民族が、
国境沿いの広大な領域で多数の漢族と雑居し、
漢族と異なる独自の文化を持つ多民族国家である。
①「少数」ではない
漢族・・・・・・・・・ 1民族
その他(「少数」民族)55民族 8.4% 1億449万人→「少数」じゃない。
・ウイグル族 840万人
・チベット族 542万人
・モンゴル族 581万人など(モンゴル国は270万人)
②分布
・チベット続の場合(2000年人口統計)
チベット自治区内(262万人)のチベット族の割合は93%
それでもチベット族の55%がチベット自治区外に住む。
ゆえに、チベットは周辺のチベット族居住地にも「高度な自治」を求め、
その面積は中国全土の1/4になる。
従い、中国側は拒否。
・ウイグル族の場合
新疆ウイグル自治区内(1846万人)のウイグル族の割合は45%で漢族は41%
(半世紀にウイグル族の割合が31%減)
ウイグル族の99%が新疆ウイグル自治区に住む。
そのためか、自治区内で漢族と激しく対立する。
③民族自治地方
5自治区・30自治州・120自治県で、総面積は中国全土の64%。
中国の陸地の国境線沿いを占めている。
4)政治的熱望の持続性(清朝末期以来、中国知識人が抱き続けた)
アヘン戦争の敗北では未だぼんやりとした危機感だったが、
軽蔑していた日本に敗れた日清戦争で目が覚めた。
だが、衰弱した政府、政治的自覚の乏しい膨大な民、外からは帝国主義列強。
どうしたら、偉大さを回復できるか?
時間のかかる改革より、即効性の革命により、
国内体制の根本的再編成(旧王朝→近代的国民国家)を目指す。
清朝末期以来、
①辛亥革命の孫文→②国民党の蒋介石→③共産党の毛沢東と、
再編成の課題は引き継がれてきた。
歴史的に断裂(不連続)を持ち込んだと称する共産党は、
実際には①→②→③という政治勢力の意思の継承者、リレーの最終ランナーだった。
清朝末期以来、多くの中国知識人によって抱かれた政治的熱望の強力な持続性が認められる。
⇒さんじのぱぱは、この「持続性」の主張に、筆者の強い思いを感じました。
5)支配の正当性主張のための中国共産党の歴史観
1840年のアヘン戦争以来、
国内の封建主義による階級対立と、帝国主義諸国による半植民地化により、
また、両者の結びつき(封建的勢力の軍閥等と帝国主義勢力)により
人民は搾取され苦しんでいた。
知識人の一部は、中国の労働者階級の成長に伴い、
マルクス・レーニン主義の有効性に気づき、中国共産党を誕生させる。
この革命家集団は、「反封建・反帝国主義」を旗印に、
苦しみながらも最終的には封建/帝国主義から人々を解放し、旧体制と手を切る。
中国の偉大さを回復できるのは中国共産党の指導によってのみ可能だとする歴史観。
光をより明るく見せるためには、闇は濃い方が良い。
共産党による革命を際立たせるために、
アヘン戦争以降の約100年(洋務運動・日清戦争・変法運動・義和団事件...)を
事後的に、過酷な長く暗いトンネルとして強調している。
そして、トンネルの出口にさしかかり、突然、革命を祝福する高らかなファンファーレが鳴り響き
革命の英雄たちが「屈辱の百年」から中国を解放し、光に満ちあふれる。
6)中国の進むべき道
ルソーはかつて、真の国民は偉大さよりも幸福を求めると示唆した(『人間不平等起源論』の冒頭に置かれた「ジュネーブ共和国にささげる」)。
幸福には私的幸福と共に、他の人々と織りなす公的関係において生じる名誉や尊敬から得られる公的幸福がある。(ハンナ・アレント『人間の条件』)。
もし中国が増大しつつある富を過剰な自己顕示ではなく、国内社会と国際社会における人々の幸福のために振り向け、また国際社会において、西洋的な価値と完全に同一化しないまでも、それと折り合うことができる地点を積極的に見いだそうと努力するなら、世界は中国が真に偉大な大国であることを認め、中国もまた公的幸福を手にするであろう。
7)中国はまだ名実ともに社会主義体制である
①生産手段の公有制
土地の所有は認められず使用権の売買に限られている。
②共産党指導
江沢民の唱えた「三つの代表」
・先進的な生産力
・先進的な文化
・広範な人民の根本的利益
のうち、”広範な人民”は、
市場経済の発展により中国に発生した企業経営者などの階層を
共産党に引き入れることで体制の安定を図る意図と、多くの学者が捉えた。
しかし、結果から見ると、企業経営者は元々共産党幹部であり、
ビジネスにおいても共産党のパイプを駆使して巨利を得ていたのだ。
彼らは「赤いブルジョア」となったが、それでも共産党員の籍を
保持させることを黙認したというのが、本旨であった。
8)健全な所得再配分システムの確立が不可欠。
9)中国なしに日本は経済的に生きていけない。
ならば、好き嫌いでなく、日本はまさに中国に正面から向き合わねばならない。

帯にあるように15名の専門家の提言を集め、終章で編者がまとめています。
■はじめに と あとがき から
本書に提言されている緒方貞子さんが講演の席上で「wiseな国民とは」との質問に対して、「多様性を理解できる人たちです」と即答され、一同が感銘を受けた。われわれも中国という他者を理解するところからまずは始めようと、はじめに に書かれています。
あとがきには
中国がより豊かで開放的で民主的な体制へと安定的に移行してくれることが、中国国民にとってはもちろんのこと、日本にとってもプラスとなろう。好き嫌いではなく、日本はまさに中国に正面から向き合わねばならない。
誰もが中国問題の評論家になり、中国問題のプロフェッショナルたちの声が小さくなってきている。そこで本書で結集してもらい、全体像を見るために5人の重鎮の先生方に提言をお願いしたとのこと。
■さんじのぱぱの感想
第3章の中国軍(共産党の人民解放軍)や、第8章のレアアース問題については専門家ならではの詳細な背景が説明され、ニュースだけでは全体像がわかりにくく誤解しそうなことがわかりました。
■読書メモ
1)核心的利益
最近中国で利用されるこの語句は、2010年12月13日「人民日報」紙上で胡錦濤の外交問題ブレーンで国務委員の戴秉国が個人的見解として
・国体----共産党の指導(領導)
・政体----社会主義制度
・政治の安定----中国的特色の社会主義の道
としている。
2)社会的安定に必要な経済成長
中国共産党指導者が最も重要視する「社会的安定」のためには、
大量の失業者を生み出さないことが大前提。
それには、経済成長率が7%を超えている必要がある。
3)少数民族
絶対人口の大きい少数民族が、
国境沿いの広大な領域で多数の漢族と雑居し、
漢族と異なる独自の文化を持つ多民族国家である。
①「少数」ではない
漢族・・・・・・・・・ 1民族
その他(「少数」民族)55民族 8.4% 1億449万人→「少数」じゃない。
・ウイグル族 840万人
・チベット族 542万人
・モンゴル族 581万人など(モンゴル国は270万人)
②分布
・チベット続の場合(2000年人口統計)
チベット自治区内(262万人)のチベット族の割合は93%
それでもチベット族の55%がチベット自治区外に住む。
ゆえに、チベットは周辺のチベット族居住地にも「高度な自治」を求め、
その面積は中国全土の1/4になる。
従い、中国側は拒否。
・ウイグル族の場合
新疆ウイグル自治区内(1846万人)のウイグル族の割合は45%で漢族は41%
(半世紀にウイグル族の割合が31%減)
ウイグル族の99%が新疆ウイグル自治区に住む。
そのためか、自治区内で漢族と激しく対立する。
③民族自治地方
5自治区・30自治州・120自治県で、総面積は中国全土の64%。
中国の陸地の国境線沿いを占めている。
4)政治的熱望の持続性(清朝末期以来、中国知識人が抱き続けた)
アヘン戦争の敗北では未だぼんやりとした危機感だったが、
軽蔑していた日本に敗れた日清戦争で目が覚めた。
だが、衰弱した政府、政治的自覚の乏しい膨大な民、外からは帝国主義列強。
どうしたら、偉大さを回復できるか?
時間のかかる改革より、即効性の革命により、
国内体制の根本的再編成(旧王朝→近代的国民国家)を目指す。
清朝末期以来、
①辛亥革命の孫文→②国民党の蒋介石→③共産党の毛沢東と、
再編成の課題は引き継がれてきた。
歴史的に断裂(不連続)を持ち込んだと称する共産党は、
実際には①→②→③という政治勢力の意思の継承者、リレーの最終ランナーだった。
清朝末期以来、多くの中国知識人によって抱かれた政治的熱望の強力な持続性が認められる。
⇒さんじのぱぱは、この「持続性」の主張に、筆者の強い思いを感じました。
5)支配の正当性主張のための中国共産党の歴史観
1840年のアヘン戦争以来、
国内の封建主義による階級対立と、帝国主義諸国による半植民地化により、
また、両者の結びつき(封建的勢力の軍閥等と帝国主義勢力)により
人民は搾取され苦しんでいた。
知識人の一部は、中国の労働者階級の成長に伴い、
マルクス・レーニン主義の有効性に気づき、中国共産党を誕生させる。
この革命家集団は、「反封建・反帝国主義」を旗印に、
苦しみながらも最終的には封建/帝国主義から人々を解放し、旧体制と手を切る。
中国の偉大さを回復できるのは中国共産党の指導によってのみ可能だとする歴史観。
光をより明るく見せるためには、闇は濃い方が良い。
共産党による革命を際立たせるために、
アヘン戦争以降の約100年(洋務運動・日清戦争・変法運動・義和団事件...)を
事後的に、過酷な長く暗いトンネルとして強調している。
そして、トンネルの出口にさしかかり、突然、革命を祝福する高らかなファンファーレが鳴り響き
革命の英雄たちが「屈辱の百年」から中国を解放し、光に満ちあふれる。
6)中国の進むべき道
ルソーはかつて、真の国民は偉大さよりも幸福を求めると示唆した(『人間不平等起源論』の冒頭に置かれた「ジュネーブ共和国にささげる」)。
幸福には私的幸福と共に、他の人々と織りなす公的関係において生じる名誉や尊敬から得られる公的幸福がある。(ハンナ・アレント『人間の条件』)。
もし中国が増大しつつある富を過剰な自己顕示ではなく、国内社会と国際社会における人々の幸福のために振り向け、また国際社会において、西洋的な価値と完全に同一化しないまでも、それと折り合うことができる地点を積極的に見いだそうと努力するなら、世界は中国が真に偉大な大国であることを認め、中国もまた公的幸福を手にするであろう。
7)中国はまだ名実ともに社会主義体制である
①生産手段の公有制
土地の所有は認められず使用権の売買に限られている。
②共産党指導
江沢民の唱えた「三つの代表」
・先進的な生産力
・先進的な文化
・広範な人民の根本的利益
のうち、”広範な人民”は、
市場経済の発展により中国に発生した企業経営者などの階層を
共産党に引き入れることで体制の安定を図る意図と、多くの学者が捉えた。
しかし、結果から見ると、企業経営者は元々共産党幹部であり、
ビジネスにおいても共産党のパイプを駆使して巨利を得ていたのだ。
彼らは「赤いブルジョア」となったが、それでも共産党員の籍を
保持させることを黙認したというのが、本旨であった。
8)健全な所得再配分システムの確立が不可欠。
9)中国なしに日本は経済的に生きていけない。
ならば、好き嫌いでなく、日本はまさに中国に正面から向き合わねばならない。
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